008 When the era ends / 時代が終わるとき

デザインのまえにあるもの.デザインのうしろにあるもの.あるデザインの背景にある状況や,クライアントの思い,世界の見方.まだデザインされていない未踏の領域について考えること.あるいは,デザインがもたらしてくれたもの.思いもよらぬ偶然が導いてくれる線を辿りながら,デザインとその周りにある物事を知るための旅に出よう.これは,そういうデザインをめぐる旅のおすそ分け.


What have been before you designed. What might be after you designed. The situation behind a design, the thoughts of the client, and how to see the world. Thinking about unexplored areas that have not yet been designed. Or what the design has brought. While following the line led by an unexpected coincidence, embark on a journey to learn about design and the things around it. This project is a souvenir of such a kind of trip seeking what design is.


from the team UNDESIGNED

Announcement / 告知

PDFs are available for most of issues! You can download them and print them as you like. We would be happy if you delivered our issues here there and everywhere.

ほとんどの号のpdfファイルがダウンロードできるようになりました.ぜひプリントアウトしてお楽しみください.自由に配布してもらえれば嬉しいです.
published 

Perspective / 視点

When the era ends / 時代が終わるとき

今年に限ったことではないが、自分が若い頃に好きだった映画、音楽、アート、そういったものを生み出してきた才能がポツポツと消えていく。おそらく、自分が20代の頃に影響を受けた人たちが今は人生の終わりの時期を迎えているということだろう。もちろん、短命の人もいれば、長生きの人もいるから、毎年誰かの訃報に接するには違いないが、それにしても、である。

時代の選別を受けたあとに残るもの、例えば、ビートルズとか、そういうものを後の世代がオーセンティック、ときにはコンサバティブなものとして享受するのは比較的簡単だ。僕が多くの恩師や先輩から教わってきたのは、時代の選別を受けた後に残るであろうモノを今あまたある中から選別する眼、である。もちろん、まだまだ修行中の身ではあるのだけれど。でも一方で、そのようなジャッジをすることそのものがもはや昔のような意味を持たなくなってきているとも思う。「これ、いいよ、おススメだよ」っていう態度は、ある意味お節介なことだと認めざるを得ないし、突き詰めれば承認欲求のような気もするし、もはや今の時代ではオフなものかもしれない。ただ、自分の好きなものについて喋りまくって一日を終えるアキッレ・カスティリオーニの授業(授業の様子ではないが、彼が自分のデザインしたランプについて語っている動画はいつも元気をくれる:https://youtu.be/hykI7RX3Q-U )のような熱量が聞き手に及ぼす影響は何でもありの今だからこそ貴重かなとも思い、つい余計なお世話をしがちなのは、これもある種のジェネレーション・ギャップにちがいない。

そんなことを考えていたら、滞在中のスコットランドから女王の健康について重大な懸念と報道されて緊張が高まった翌日、エリザベス二世の崩御が公式にアナウンスされた。英国王室はひとつのカルチャー/エンターテイメントだとイギリス流にうそぶくまでもなく、世界一有名な人物と言われる一人の女性の死が与える影響はどれほどのものだろう。2022年9月15日現在、女王の崩御のアナウンス以降、オペレーション・ロンドン・ブリッジと呼ばれる詳細なマニュアルに則って一つ一つの儀式を粛々と進めていく段取りの良さもすごいが、ウェストミンスター寺院に安置された棺にひとことお別れをしようと並ぶ市民の列は5マイル(約8km)にも及んだというから驚く。一つの時代の終わりに立ち会っている、そういう感慨を持って遠く離れた日本からぼんやりと見ている。

Site / 現場

 Word is essential for design; an interview with Kentaro Ooi (Listen)  言葉とデザイン

アートディレクター、大井健太郎さんに伺ったこれまでのキャリアパスと制作プロセス.

This time, we interviewed an art director, Kentaro Ooi, just before he gives a lecture for students of Anabuki design college Hiroshima that he graduated in 2003. He talks on his young days and experience. Plus, how he runs his own design firm which has gotten lots of award. His stunning design/building a brand for many companies or organisations looks so emotional, pure, clearness. He explained his method throughout his design process and the key is how to share an exact images by his words at the first. He design all kinds of his work by building those words just like a movie director. Let's have a listen.

今回は,アートディレクターの大井健太郎さん(Listen代表)にインタビューしました.これまでの経歴と,彼のデザインプロセスの中でいかに言葉が大きな役割を担ってきたかについてお話しいただいています. 

Listen:
http://listen.works/

Site / 現場

もちのえき/もののけ小路 体験記

9月初旬平日のお昼前に,三次に出来た「もちのえき」に立ち寄ってみました.ここは,谷尻誠さん率いるサポーズデザインオフィスがデザインと運営をしている団子屋さんです.谷尻氏の故郷である三次に残っていた木造古民家を改修して「もののけ小路(しょうじ)」として東西方向に抜ける屋内自由通路として整備し,その脇にキッチンとテーブル席を配置し,通りに面したところはカウンターとしてお店の顔になっています.

訪問した日は傘をさすのを迷うくらいの小雨が静かに通りの石畳を濡らしていて,三次の「歴みち石畳通り」はしっとりとした風情に包まれていました.外壁と屋根は濃い茶色の鋼板が使われています.屋根面のうねり具合がリノベーションならではの独特のカーブを描いています.

ランチがわりにおはぎを注文.実はここのおはぎをいただくのは2回目ですが,病みつきになる味です.口の中でプチプチする玄米の食感がたまりません.これは確かに団子やおはぎを目的にここまで食べに来たくなる!

さて,お団子とおはぎがいかに美味しいかについては他の人のレポートに任せ,ここではそのリノベーションされた空間にフォーカスしてみていきましょう.


分かりやすいアクセスはやはり「三次もののけミュージアム」側から.三次は妖怪の町として知られており,全国でも珍しい妖怪の資料館があります.きれいに整備されたミュージアムの通路を抜けると「もののけ小路」を妖怪が案内する立て看板が導いてくれます.

もののけミュージアムともののけ小路は目と鼻の先.ミュージアム側からアクセスすると,もちのえきの裏側からアプローチすることになります.もちのえきの見慣れた暖簾のファサードが見えないのですが,まだ青々と茂る芝生に敷かれた石畳の脇の小屋の横を通って門のように残された東家,倉庫脇をぬけ,まさに小路を抜けて反対側の通りに出ると,笑顔のスタッフが待っています.

もののけ小路はこんな感じで自由に通り抜けができるようになっています.おそらく,古い町屋の廊下,通り庭だったのでしょう.モルタルで仕上げられた小路の脇にはベンチがしつらえてあります.

内部の仕上げは,基本的に現状の土壁が表しにされており,傷み具合もそのまま表情として残されているようです.


カウンター周りも,歴史のある古民家の素材にフィットするようにナチュラルに手触りのある素材と色味で整えられています.スパウト(水栓)もブラックが選ばれていてこだわりが見えます.

テーブル席はキッチンがわと中庭との間に設てあります.こちらも床の間や押し入れがあったと思しき柱の構成が残されていますね.一部竹小舞が露出しているのは,框か何かの造作材を剥がした後をそのままにしています.

キッチンと一体のテーブル席の空間は,天井と小路に面した壁がガラスで区画されていますガラスを納めるフレームはスチールで暖簾とにた小豆色で塗装されています.


木製のテーブルは天板の縁がわずかに立ち上がりがあるため肘を置いたときにわずかに違和感がありますが,お盆のような美しいデザインです.足はスチールでこの色も小豆色.椅子は定番トーネットのモデルがセレクトされています.小さな空間ですが,庭に面していることと,照明が抑えられていること,何より空間のしつらいが心地よく,長居したくなる空間です.

そして極め付けは偶然の産物,土間に残された猫の足跡.生乾きの時に通ったのでしょう.

採用した鋼板の色味のせいで,街並みにすっかり溶け込んでいます.いかに特別に見えるものでなく,街と同化して地域に馴染むことに気を配ったかが感じられますね.


広島県の山間部に位置する三次市.10年ほど前から,グッと見るべき建築も増えてきました.古墳や遺跡から,最先端の建築,過去と現代をつなぐリノベーションまで一度に楽しめる広島県の三次市.これは秋のドライブのデスティネーションとしてちょうどいいかもしれませんね


もちのえき

https://www.instagram.com/mochinoeki_official/

Essentials / 日常

ここでは,日常の中で見つけることが出来るデザインのエッセンスや,モノやコトへの視点がそれぞれの感性によって語られます.また,UNDESIGNEDを読みながら楽しんでもらうための素敵な音楽のセレクションも一緒に.毎回,UNDESIGNEDのメンバーやゲストの寄稿でアトランダムに構成します.

Here, the essence of design that can be found in everyday life and the perspective on things are talked about by each sensibility. Plus, with a good music playlist for you. Each time, it is randomly provided by UNDESIGNED members and guest writers.

逆読み / reverse reading


本や映画パンフレットを、読んだり観たりした内容からそのデザインを考えてみる。

illustration and text by Maiko Teramoto

『愛と差別と友情とLGBTQ+』北丸雄二さん、人々舎。

ジャーナリスト北丸雄二さんが、25年間滞在したNYでの「LGBTQ+」定点観測から描く“あの時アメリカで起こっていたこと”。自身の経験も交えた真摯な考察は、アメリカだけではなく今の日本の状態、ひいては一人ひとりの生き方にも多くの気づきをもたらしてくれます。「愛と差別」をめぐる怒涛のような行動と感情のやり取りの果てに、「友情」が未来を拓いてくれるかも知れないという希望も。まさに「公と私」を行き来する語りは、迷った時に読み返したくなる優しさと、不寛容と闘う毅然とした強さに満ちています。

Soundscape on your day off / 休日の音の風景

毎回,音楽好きの仲間に「今」聴きたい曲やアルバムをセレクトしてお勧めしてもらいます.
We also recommends nice music which is selected by DJs or people who are loving music so much.

Playlist:Endless summer / Just go with the flow
選曲と文 / music selection and text by Mitch

夏が終わることについて。身体的な面では年々喜びが強くなっていくものの、気持ちの面では昔と同じようにどこか切ない。日が昇るのが遅くなり、陽が沈むのが早くなる。個人的サマータイム(いつもより30分から1時間起きるのを早める)の終わりのタイミングについて考える。太陽の動きに合わせて働くことは、全体としては余計なエネルギーを消費せずに済むことになる気もする。

一つ目のタイトルは最初、小津安二郎の映画のタイトルを引用して The end of summer としていたけど、日に日に夏が行くのが惜しまれ、変えることにした。

いずれにしても、川の流れのように、あるいは雲が行くように、時間は淡々と過ぎていく。

Team UNDESIGNED of this issue are...

Producer / Editor / Video Editor
Takashi Sasaki
大阪生まれ香川育ち.野球ばかりでデザインとは縁がなかったが,デザイン関連の取材を通して,その考え方やプロセスに惹かれたひとり.

Editor in chief  /
Michiaki Nishio 
広島生まれ.建築およびデザインと人間の接点から社会や未来を夢想するのが癖.普段は建築を軸にデザインの実践と教育に携わる.

Regular editor / Editorial designer
Maiko Teramoto
広島生まれ.素敵なものが,なぜ素敵なのかを考えがち.もちろんデザインでも.古今東西全ての本と映画を見漁るのが叶わぬ夢.

Special thanks for this issue: 

Kentaro Ooi (Listen),
Supported by Anabuki Design College Hiroshima